2章「日常」
5月も終わりに近づき暑くなりだしてきた頃。
ここはさかえやめぐる商事。おもに料理レシピの提案受注業務を行っている企業であり、都内に小さなビルを1棟構えている。
鈴本(すずもと)あかり24歳は取引先との契約をまとめる課に勤めており、この4月で入社2年目になる。
勤務態度も真面目で先輩からも期待されており、後輩の伊藤晴香(いとうはるか)からも憧れの先輩として慕われている。
そんな彼女がこれから、淫らな奴隷に落ちていくなんて彼女自身、想像していなかったであろう。
「せんぱ~い、今日の資料のここの書式の書き方がわからないんですけど、教えてもらってもいいですか~?」
そう尋ねてくるのは今年入社したての新人の伊藤だ。
「ここ?そうね、確かにこの書式をまとめるにはこのツールを使う事に気づかないと中々進まないわよね。ほらここにタブがあるのわかる?ここをこうやって、こう選択するとできるわ」
と、笑顔で教えるあかり。
「さっすが、先輩!ありがとうございます。」
「今度、また一緒にご飯いきましょうね、今回のお礼に私、また美味しいケーキショップ発掘しときますぅ。」
「本当?あかりさんと前に行ったお店、おいしかったから楽しみだわ。」
と仲良く話をする二人。
そこに、
「ただいま、戻りました。」
扉を開け帰ってきたのは、あかりの先輩の壇光成(だんみつなり)27歳と武田(たけだ)はじめ27歳だ。
壇は、あかりが1年目の時に仕事を教えてくれた先輩であり、あかりがひそかに好意をよせている男である。
「今日のりんてん寿司商事様との商談も無事成立しました。」
と部長の佐々木に報告する壇。
「ん、ご苦労。」
と、素気なく返事をする佐々木。
部下が契約を取ってきたのに冷たい態度だが、壇と武田は佐々木に対して「はい!」と礼儀正しく返事をする。
今回取ってきた契約はこの会社にとってもチャンスになるかもしれない大きな契約のはずなのにリアクションの冷たい佐々木だ。
「じゃぁ、皆、俺は社長に報告に言ってくるからそこそこで切り上げてあがるように。」
と、適当な指示をして退出していく佐々木。
伊藤が、
「壇先輩、お疲れ様でした、りんてん寿司商事との商談大変だったんじゃないですかぁ?」
と聞くと、
「そんな事ないよ、先方も話のわかる良い人たちばかりでね、うまい事話が進んだよ。」
と笑顔で返す壇、爽やかな仕事ができる社員だ。
私も声かけたいなと思いながらも最近は意識してしまっているせいか話す事も億劫になってしまっているあかり。
頭の中では、商談成立のお祝いにご飯食べにいきましょう。とか声をかけている自分を想像しているが、できない自分にもどかしさを感じる。
今まで学生の時に1回しか付き合った事がなく、それも1か月でキスをしてお終いという切ない恋愛しかした事のないあかりには自分からのアプローチなど勇気がなくて、とても出来なかった。