社内奴隷あかり⑤

小説

5章「失敗」

あかりが佐々木に屈辱の謝罪をしてから1週間後。

あかりは、佐々木と会うのは億劫だが、仕事に急に穴をあける訳にもいかず、極力、佐々木とは関わらないようにしながらも会社に出勤していた。

そんなあかりだが、就業が始まってすぐに、

「鈴本!鈴本!こっちに来いっ!」

と佐々木の怒号が部署に響き渡り、何事かと呼び出される。

佐々木の声にあかりはビクっとしてしまう。

あかりは急いで、席を立ちあがると、顔面からは血の気が引き、いっきに蒼白になっているのがわかる。

あかりの後輩の伊藤は、また先輩やらかしちゃったんだ、できる人だと思ってたけどそうでもないのかしらと落胆した気持ちで佐々木に呼び出されるあかりの方を見る。

あかりが佐々木の前に立つと、

「まぁた、やってくれたなぁ。昨日の野口の食事会の予定組んだの鈴本だろ!」

そう言われて、あかりの顔面からますます血の気がひいていく。そして、なぜだが佐々木の大きい声を聞くと、あの日のトラウマからか股間にじんじんとした痛みにも快楽にも似た感覚がしてしまう。

「そ、それなら予定時間も場所も何回も確認して、先方にもご連絡をしているのですが。」

と答えるあかり。

「あのなぁ、コース料理を選んだのもお前だろ?しっかり先方のアレルギー確認をしたのか?」

そう言われ、身体が固まるあかり。

確かに、そこまではしていなかった。言われてみれば確かに大事な確認事項だと焦るあかり。

「先方の方に卵アレルギーの方がいてな。身体にアレルギー反応が出て大激怒だぞ!!幸い、軽症で済んだようだが野口が必死で謝罪してな。昨日は泣きながら俺に報告の電話をしてきたぞ!」

そ、そんなと思いながら野口の席の方を見るあかり。

しかし、そこに野口の姿はなかった。今朝から見た覚えもないし、休んでいるのだろうかと不安になる。

「今日は、ショックで野口は欠席だ。また、休憩時間にでも野口に電話して謝っとくように!」

そう怒鳴られたあかりは、自分のミスで今度は野口に迷惑をかけてしまったと肩を落とす。

あかりにとって野口は適当な所もあるが、話も聞いてくれる一つ上の先輩だ。好きか嫌いかと言われればどちらでもないという感じだが、そんな事は関係ない。

迷惑をかけてしまった事に深い罪悪感を感じる。

「はぃ。」

消え入りそうな声で返事をしたあかりは自分の席にトボトボと戻っていく。

クスクスっと笑い声が聞こえた気がした。ふと俯きながら回りを見渡すあかりだが、みんな自分のデスクに向かってPCを操作している。

気のせいよね、そうよね、私が怒られて、笑ってるなんて。そんな酷い人はこの部署にはいないわ、そう言い聞かすあかり。

その後の仕事も上の空状態になってしまった。

昼休憩の音楽が鳴ると、あかりは、携帯片手にダッシュでオフィスから出ていき、野口に電話をする。

「プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルル。」

電話に出ない。疲れて寝てるのかしら。そう考えるあかり。

しかし、早く謝りたいという気持ちから、再度電話をするあかり。

「プルルルル、プルルルル・・・」

コール音を聞きながらあかりは思い出す。

そういえば佐々木が酷い謝罪を行ったのは、もりもりはんと商事様だ。そして、今回の野口の謝罪先ももりもりはんと商事様。何か変な謝罪をさせられたんじゃないかと恐怖と申し訳なさで涙がでてくる。

「もしもし、」

長い事コールを待っただろう。しつこいと思ったのか野口が電話に出たようだ。

「す、鈴本です。この度は申し訳ありませんでした!」

日本人特有のものだろうが、電話ごしで相手は見てないのに、あかりは深々と頭を下げて謝罪をする。

そして、長い沈黙の後、

「許さない。」

そう、野口から冷たい言葉を浴びせられる。

勿論、これは佐々木が裏で計画をして、あかりを陥れているのだが、野口は噂の事件の件であかりに対して怒りを覚えている。

野口は更に冷たく言う。

「今日、仕事が終わったら私の家に来て。佐々木部長に聞けばわかると思うから。あと佐々木部長と一緒に来てね。」

そう言い、ブツッと電話が切れてしまう。

あかりは、自分のミスで先輩に恨まれるといったストレスがいっきに溜まったせいか下腹部にキュルキュルとした痛みを感じる。

はぁ、また謝らなくちゃ。しかも何で佐々木部長も連れていかないといけないの。そう憂鬱な気持ちになり立ちすくむ。

どれだけそこに立っていたのだろうか、気づけば昼休憩終了の音楽が鳴っている。

ふと、我に返ったあかりは自分の部署に戻ろうと急いで走り出す。戻っている途中で佐々木を見つけて、呼び止めるあかり。

「あ、あの、佐々木部長。」

「野口さんに電話しました。」

「ん、ああ、どうだった?」

と、聞く佐々木に、

「あ、あの、申し訳ないのですが、今日の仕事終わりに私と一緒に野口さんのお宅に行っていただけないでしょうか。」

お願いするあかり。

「は?そんな事急に言われてもね、俺だって仕事終わりに予定があるんだ、またお前のせいで時間とられるのか。」

と、とりつくしまもなくなってしまったあかりは目に涙を浮かべる。

「申し訳ありません。そこをなんとかよろしくお願いいたします。」

と深々と頭を下げてお願いするあかり。

「はぁ、わかったよ。野口の家は調べておくから。」

と言い、2、3歩歩いた所で佐々木は振り返り、

「終わったらまた俺にも謝罪な。」

とニヤけた顔をしてあかりに言い放つ。

あかりは絶望して、目に涙を溜めながらその場に立っていた。

途中、板橋、壇、武田が横を通りすぎていった気がするが、泣きそうな雰囲気のあかりに声をかける者はいなかった。

元より声をかけられた所であかりの気持ちを立て直せる言葉はないだろう。

涙を拭いて、自分のデスクに戻るあかり

「ちょっとー、あかりさん就業時間守ってよねぇ、たるんでるんじゃないのぉ。」

と加藤にチクりと嫌みを言われる。

「ご、ごめんなさい。気をつけます。」

そう加藤に会釈してから席に座る。

「ベチッ」

と、頭に何か当たった感覚があった、机には輪ゴムがコロコロと転がる様子が見えた。

何もそこまでする事ないじゃないと思いながらも、顔をあげる事ができずに俯いたまま仕事をはじめるあかり。

普段は茶色がかったセミロングの髪型で前髪の両脇の毛をサイドバングに繋げて可愛らしくしているあかりだが、今は前髪がダラリと前にかかりお化けのような雰囲気になってしまっている。

伊藤が何か聞きたそうな顔をしているが、心に余裕がなくなっているあかりは目をそらしてしまう。

後で、伊藤と壇が楽しそうに話している声が聞こえてきた。なにやらご飯の話しをしているようだった。

羨ましい。そう思いながらも自分の不甲斐なさを感じながら仕事をする。

17時になり就業終了の音楽が鳴った。

あかりは机の上の書類を整理し、佐々木の元へ向かう。

「部長、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。よろしくお願いします。」

と言いながら、お辞儀をするあかり。

それを見て、佐々木は昼休憩の時からは機嫌がよくなっているのか、

「まぁ、いいよいいよ、部下のミスは俺の責任だからな。」

と、優しい言葉をかけてくれた。

「まぁ、幸い野口の家ってここから歩いて徒歩5分くらいの所なんだよ、これなら早く済みそうだしな。」

そう言いながら佐々木はあかりにコーヒーを差し出す。

「まぁ、これでも飲んで。一旦落ち着いてから謝りにいこうじゃないか。」

思いがけない佐々木の優しさに、少し明るい気持ちになったあかり。

「はいっ。」

と返事をして、差し出されたコーヒーを飲む。

飲み終わったのを確認して、佐々木が、

「じゃぁ、行こうか。」

と、促す。

「はい。」

と、返事をして、少し落ち着いてきたのか、あかりも髪型を戻してから、歩き出す佐々木に付いて会社を出ていく。

コーヒーに利尿剤をいれられているとも知らずに。

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